自律神経とポリ・ヴェーガル理論
自律神経と聞くと、交感神経=緊張、副交感神経=リラックス
と連想することが多いと思いますが、当院での自律神経に関連する症状の施術では
【ポリ・ヴェーガル理論(多重迷走神経理論)】
を元に自律神経を考えて施術をすすめていきます。
※交感神経、副交感神経という二つの分類で考えない理論です。
ですので、自律神経失調症などの症状に対して単純に、副交感神経を優位に、リラックスできるように、といったことはしませんので、ご了承ください。
そういったことは一切忘れて、施術を受けていただいたほうが良いかと思います。
ポリ・ヴェーガル理論とは
ポリ・ヴェーガル理論とは、自律神経系を三つの階層に分けて考えます。
1.腹側迷走神経系
自律神経系の中で、健康を考える上で最も大切な神経系です。
一般的に認知されている、副交感神経と同じような働きとも言えますが、単純なリラックスに対応したものではありません。
4の部分が最も重要です。
1. 安心・リラックス状態を促進する
心拍数や呼吸数、血圧などを低下させ、体をリラックス状態へと導きます。
腸の蠕動運動を活発にし、消化吸収を促進します。
免疫機能を高め、病気に対する抵抗力を向上させます。
2. 社会的なつながりを促進する
顔の表情を穏やかにし、相手への共感や信頼感を高めます。
声のトーンを優しくし、コミュニケーションを円滑にします。
脳内の報酬系を活性化し、幸福感や充実感をもたらします。
3. トラウマからの回復を助ける
過去のトラウマ体験、などによる恐怖や不安を和らげ、心を落ち着かせます。
自己受容を促進し、自分自身を大切にする気持ちを高めます。
回復力やレジリエンス(忍耐力)を高め、困難を乗り越える力をもたらします。
4.社会交流システム(特に重要)
腹側迷走神経系が優位な状態のことを『ソーシャルエンゲージメント状態(社会交流)』と呼びます。
この状態では、人は周りの人と安心してつながり、心身ともに健康で幸福な状態を維持することができます。
人とのつながりを感じられるからこそ自分は安全だと認識でき、さらにその安全だという認識が身体の健康状態を保ち、高めるように神経系に作用します。
逆に、腹側迷走神経系が十分に働かない状態では、『闘争・逃走反応』や『凍結反応(シャットダウン』と呼ばれる防衛反応が起こりやすくなります。
※シャットダウンは、蛇ににらまれた蛙のように、命の危機への恐怖が強いがゆえに全く動かなくなる反応です。
※動物は動くものに対してよく反応(攻撃)しますので、微動だにしないことで逆に身を守ろうとする本能です。
2.交感神経系
交感神経系は哺乳類が出現した際に発達したシステムで、「闘争・逃走」の反応を司ります。
心拍数や血圧を上昇させ、筋肉にエネルギーを供給することで、危険から身を守るための行動を可能にします。
1.「闘争・逃走」反応の活性化
危機的状況に直面すると、交感神経系が活性化し、心拍数、血圧、呼吸数の上昇、瞳孔の散大、筋肉の緊張などを引き起こします。
これらは、危険から身を守るために必要な行動を可能にする生理的な変化です。
2.エネルギーの供給
交感神経系は、肝臓や筋肉などの臓器に指令を送ることで、グルコースや脂肪酸などのエネルギー源を血液中に放出します。
これにより、筋肉が十分なエネルギーを供給され、素早く行動できるようになります。
3.免疫機能の抑制
危機的状況下では、免疫機能が抑制されることが知られています。
これは、交感神経系が免疫細胞の働きを抑制するホルモンであるコルチゾールの分泌を促進するためと考えられています。
3.背側迷走神経系
背側迷走神経系は、ポリヴェーガル理論において、3つの階層(生命維持システム、防御システム、社会システム)のうち、防御システムに属する神経系です。
生命維持システムを担う脳幹と延髄から始まり、内臓や血管などを支配し、以下の機能に関与します。
背側迷走神経系の考え方が、一般的な自律神経の認知からは遠いと思いますので、理解するのが少し難しいかもしれません。
1.不動化反応
危機的状況に直面した際、「戦うことも逃げることもできない」と判断したときに発動する反応です。
心拍数や呼吸数が低下し、筋肉が硬直したり、意識が朦朧としたりします。
「死んだふり」をすることで、捕食者から身を守る防御反応と考えられています。
2.消化・吸収機能の亢進
胃腸の蠕動運動を活発にし、消化吸収を促進します。
促進と聞くと、良い反応のように思えてしまいますが、過度に促進(亢進)すればそれは逆に
【消化不良を起こす】
ことになります。
具体的には下痢が起きるということです。
また、蠕動運動が亢進すると腸管内の圧力が高まり、腹痛を引き起こす可能性もあります。
さらに、胆汁の分泌を促進し脂肪の消化を助けます。
これも良い一面もあるのですが、脂肪の消化が高まりすぎると、それはそれで脂肪が不足することにもなり得ます。
特に女性にとっては悪影響が出るかもしれません。
私の経験則としては、背側迷走神経系の働きが強い(不動化反応、凍結反応)方は、身体が細く脂肪も筋肉も少ないイメージがありますので、その経験則とも合っていると思っています。
3.保全
「危険が去った」と判断した際に発動する反応です。
凍結反応から徐々に回復し、心身が休息状態へと向かいます。
4.凍結(シャットダウン)
極度の恐怖によって、「思考停止状態」に陥る反応です。
不動化反応よりもさらに深い防御反応であり、記憶喪失や解離性障害などの症状を引き起こす可能性があります。
の三つに分けて分類し、かつ、この順番に上から並んだ階層構造になっています。
腹側迷走神経系の働きが良ければ、その下の階層である交感神経系も背側迷走神経系の働きも正常範囲内のものになりますし、逆に腹側迷走神経系の働きが悪ければ、その下の階層の神経系も働きが悪くなる(過度に活動する)、という形です。
三つの神経系の中で、特に腹側迷走神経系が健康的な生活を送るためには最も大切、と覚えておけば良いかと思います。
施術では呼吸を目安に
自律神経系の症状、訴えを改善する際には
・呼吸
を目安に施術をすすめていきます。
呼吸によって
・心肺機能
・腹腔内の内臓の可動性
・腹筋群の緊張のレベル
・横隔膜が使えているかどうか
・鼻呼吸かどうか
などをチェックしていきます。
呼吸に自律神経の全てが反映されるわけではありませんが、チェックのしやすいことや、内臓のお腹の中の在りようなども察知しやすいので、施術を分かりやすくしてくれます。
呼吸をチェックし、そのまま呼吸の不具合を改善することで、心肺機能も整いやすくなります。
心肺機能も当然、自律神経系と関連してきます。
顔の筋肉(表情筋)を整える
自律神経系の状態は、顔の筋肉の緊張度合いにも表れます。
表情は心理状態を表しますので、顔の筋肉が固まっている人は、自律神経のバイオリズムが狂いやすくなります。
そのため、顔への施術も自律神経系を整えるためには重要です。
顔の神経は主に
・顔面神経
・三叉神経
になりますので、それらの神経の走行に合わせて、鍼を打ったり整体を施したりしていきます。
腕の脚の、前面の緊張
後は、手足末端の緊張の緩和です。
身体を動かす際に手足を含めた筋肉が緊張するのは、当然のことですが、ベッドに横になっている時など安静時に緊張が高まっていのは、身体の闘争・逃走反応が不必要に出ているということです。
自律神経的には、適切に働いていない状態です。
※大事なこととしては、交感神経が優位になっているからといって悪いわけではないことです。
手足の緊張を緩和したいのは、人間の動作、行動の結果として手足を使うことが多いからです。
手足の緊張が高まっているということは、いつでもとっさに動けるように構えているような感じです。
ベッドに横たわっている時などの安静時は、とっさに動く必要はありませんよね。
自律神経を直接コントロールすることは不可能ですので、安静時の身体の状態を目安に、安静時であるのに何かに対して構えている状態を解除することで、自律神経を整えていきます。
大事なことなので何度も伝えますが、
・自律神経が乱れている=交感神経が優位⇒リラックスが必要、を目的としない
施術を行います。
自律神経が乱れている、そして交感神経が優位になっている、だから調子が悪いと考えている方は一度
・休みの日に1日中ベッドで寝ている
ということをお試しください。
リラックスすることで自律神経が整うのであれば、それでOKかと思います。
それで調子が整わないのであれば、『自律神経が乱れている=交感神経が優位⇒リラックスが必要』という考えを捨てることをオススメします。
まとめ
まとめると、当院の、自律神経を整える施術の考え方は
・ベッドに横になった状態を目安に考える
・安静時にも関わらず闘争・逃走反応が出ている、強い部分の緊張を緩和する
ということになります。
また、『自律神経が乱れているからリラックスが必要とは考えない』ことも重要です。
※1日中寝ていて身体をリラックスさせることで、自律神経が乱れている方の調子が整ったという話は私は聞いたことがありません。
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